【高齢の親が返済できないときの対応策】家族ができる金銭管理と支援法

滞納に気づいた経緯

当時の私は、親の介護が始まりつつあるという現実からも目をそらし、日常の家事や金銭管理はすべて親に任せ、自分のことだけを優先して生活していました。母の認知症はすでに始まっていたはずですが、私はその事実にまったく気づいていませんでしたし、気づこうともしなかったのです。

ある日、自宅の電話が鳴りました。普段は親が電話に出るのが当たり前だったので私は放っていたのですが、何度も鳴り続けていたため仕方なく受話器を取りました。相手は保険会社で、「保険料の支払いが何ヶ月も滞っている」との催促でした。

驚きと不安が一気に押し寄せ、すぐに母に確認しましたが、「払ってるはず」「知らない」と言うばかりで、話している内容も曖昧。今までとは明らかに違うと感じました。これが、親が金銭管理に問題を抱えていること、そしてそれに私自身が無関心であったことに初めて気づくきっかけとなったのです。

本人との対話の難しさ

私は慌てて母と話をしようとしました。しかし、すぐに壁にぶつかります。母は話をはぐらかし、「心配いらない」と言って取り合ってくれません。今思えば、母のプライドや羞恥心、「子どもに迷惑をかけたくない」という思いがあったのだと思います。

また、父もそれほど問題視しておらず、深く介入する様子もありませんでした。家族の中で唯一焦っていたのは私一人で、どこから手をつければいいのかもわからず、ただ戸惑っていました。

「これは認知症の初期症状かもしれない」という疑念もありましたが、当時の私は認知症についての知識もなく、まさか母が、という気持ちが先立って、強く疑うこともできませんでした。

返済交渉の具体的ステップ

現状を把握するために、私はまず催促の電話を受けた保険会社にこちらから改めて電話をかけ直しました。電話口では「息子である私が代理人として対応している」と伝えました。すると、母の生年月日や住所、契約内容など細かい本人確認事項を聞かれましたが、事前にどのようなことを聞かれるかをインターネットで調べて、メモを用意していたので、慌てずに答えることができました。

それが功を奏したのか、担当者はとても丁寧に対応してくださり、支払い方法や延滞金の扱い、分割返済の可能性など、具体的な選択肢を詳しく説明してくれました。この経験を通して痛感したのは、誠意をもって事情を伝え、先延ばしにせず行動することの大切さです。

私のケースでは比較的スムーズに進みましたが、場合によっては以下のような追加対応も考えられます。

  • 委任状の準備:多くの金融機関や保険会社では、家族が代理で手続きを行うために委任状が必要になります。あらかじめ書式や手続き方法を確認しておくとスムーズです。
  • 本人同席での電話対応:本人確認が必要な場合、隣に本人を座らせて電話をかけ、本人の声で確認事項に答えてもらう形が有効です。短時間のやりとりでも大きな効果があります。
  • 録音や記録を残す:会話の要点や確認事項をメモに残しておくことで、後日話が食い違ったときに証拠として活用できます。録音できる環境があればより確実です。
  • 支払い状況の整理:1件だけでなく、他にも支払遅延が発生していないかを全体的に確認することが重要です。通帳・クレジットカードの明細・保険証券などをチェックしましょう。
  • 相談窓口の利用:消費生活センターや弁護士会の無料法律相談、高齢者支援窓口など、公的な支援機関の活用はとても効果的です。客観的な意見やアドバイスをもらえる貴重な機会になります。

とにかく、放置しないこと、先延ばしにしないこと。そして「誰かがなんとかしてくれるだろう」ではなく、「自分が対応する」という意識を持つことが解決の第一歩になると感じました。

家族ができる金銭管理の工夫

返済滞納をきっかけに、私は母と父に「お金の管理がうまくできていない現状がある」と正直に伝えました。そして、通帳を確認させてもらうことになりました。通帳には、かつては数百万円の残高があったはずの預金が、ここ数年で急に引き出されており、今ではほとんど残っていないことが記されていました。

そのとき、ふと頭に浮かんだのは、ここ最近の食卓の風景でした。以前は母が毎日食事を作ってくれていたのに、いつの間にか調理の頻度が減り、代わりに美味しそうなお惣菜が並ぶことが増えていました。もしかしたら母なりに「家族に美味しいものを食べさせたい」という思いから、惣菜を頻繁に買っていたのかもしれない。そう思うと、ただ無計画に浪費していたというよりも、母なりの愛情の表れだったのではと、複雑な気持ちになりました。

この状況に私が困惑していると、父から「これからは母のお金はお前が管理してくれ」と言われました。この一言が、私が本格的に金銭管理を引き受ける大きなきっかけになりました。

私自身の工夫以外にも、家族ができる金銭管理の工夫は多くあります。以下に挙げる方法を参考に、状況に応じて取り入れてみてください。

  • 月々の収支表を一緒に作る:収入と支出を可視化することで、無駄な支出や生活維持に必要な費用が明確になります。
  • 支出の優先順位を整理する:医療費、食費、光熱費など、重要度の高い項目を先に予算化して、計画的に管理します。
  • 公共料金や保険料などの固定費を自動引き落としに設定:うっかり忘れを防ぐと同時に、支払いの手間を減らすことができます。
  • 複数口座を用途別に使い分ける:生活費用、貯金用、医療費用などに分けることで、目的に応じた管理がしやすくなります。
  • クレジットカードの利用を制限する:必要最低限に留めたり、プリペイド型に変更することで使いすぎを防止します。
  • 本人の了承を得たうえでの通帳管理:毎月の記帳を通じて異常な引き出しや支出がないかを確認します。
  • 金融機関のオンラインバンキングを活用する:離れて暮らす家族でもリアルタイムに残高や履歴を確認でき、緊急時の判断に役立ちます。
  • 認知症が進行している場合は成年後見制度の検討を:家庭裁判所を通じて法的に金銭管理を代行する制度で、悪質な詐欺や無駄な出費を防ぐ強力な手段となります。
  • 家族会議を定期的に開く:お金の管理方法を家族全体で共有し、責任や負担が偏らないように話し合うことが大切です。

同じ経験をする人へ

当時の私は、家のことも親のこともすべて親任せにし、自分の生活ばかりを優先していました。母が認知症を患っていたことにも気づかず、ただ「変だな」と感じる程度で深く考えることもしていませんでした。

しかし、催促の電話を受け取ったあの日から、私の中で何かが変わりました。知識がなくても、経験がなくても、「何とかしなきゃ」と思った気持ちが最初の一歩でした。

この経験を通じて痛感したのは、「気づいたときが始まり」だということです。完璧である必要はありません。大切なのは、放置しないこと、そして誰かに相談することです。

もし今、あなたの親に似たような兆候があるなら、どうかその違和感を大切にしてください。そして、必要な支援を探す勇気を持ってください。無知で無関心だった私にもできたことです。あなたにもきっとできるはずです。

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