
なぜ家計管理が必要になったか

私が母の金銭管理に関わるようになったのは、ある日、母宛に届いた生命保険の振替不能通知を見つけたことがきっかけでした。毎月自動で口座から引き落とされているはずの保険料が支払われず、支払いを求める書面が届いていたのです。
「そんなはずはない」と思いながら母の通帳を確認してみると、残高はほとんどゼロに近い状態。直近の明細を見ると、頻繁に数万円単位の現金が引き出されており、肝心な支払いができるだけの残高が残っていなかったのです。
日頃から母の様子に多少の不安を感じる場面はありましたが、まさかここまで家計がコントロールできなくなっているとは思っていませんでした。しかも、何に使ったかを聞いても「うーん、何だったかなぁ」とはぐらかされるばかり。記憶のあいまいさと金銭感覚のズレが重なって、不安は一気に現実味を帯びてきました。
この状況を父に伝えたところ、返ってきたのはあっさりとした一言だけ。「お前が母の口座の管理をしてくれ」。
父は家族の中では一応“決定権”を持つ立場ですが、実際には家計をはじめ、家のことは何も把握しておらず、母にすべてを任せきり。通帳の場所さえわからないという有様です。自分で解決するつもりは一切なく、「面倒なことはお前がやれ」と言わんばかりにすべてを丸投げされるような気持ちになりました。
正直、「どうして私が…」という戸惑いと苛立ちが混じった感情を覚えました。しかし頭の中をよぎったのは、このまま放置すれば、保険料の未払いが続き、最悪の場合は高額の請求や財産の差し押さえに発展するかもしれないという不安でした。いま手を打たなければ、母の老後の生活だけでなく、家族全体に深刻な影響が出る――そう感じ、腹をくくって母の口座管理を引き受けることにしたのです。
銀行アプリ導入の手順と使い方

金銭管理の第一歩として私が選んだのは、「銀行口座アプリ」の導入です。これにより、外出先からでも親の口座残高や入出金履歴を確認できるようになります。通帳を持ち歩かずに済み、操作もスマホで簡単。なにより、リアルタイムで状況がわかるため、「最近現金をたくさん引き出していないか」なども把握できます。
導入の手順は以下の通りです
- 銀行の公式アプリを確認:まずは親が使っている銀行の公式アプリがあるか調べます。大手銀行であればほぼ対応しており、地方銀行でも対応が進んでいます。
- 口座のオンライン登録:ネットバンキングの利用登録が必要です。これは窓口や郵送でも可能ですが、高齢者の場合は同行して手続きするとスムーズです。
- アプリをスマートフォンにインストール:親のスマホでも自分のスマホでもOKですが、親がスマホを使っていない場合は自分のスマホで代理確認できる設定にします。私は、今使っていないスマホにインストールして、自宅にいるときにWi-Fi環境で使っています。
- ログイン設定とセキュリティ確認:生体認証(指紋や顔認証)などを設定し、安全にログインできるようにします。
導入後は、定期的にログインして口座の状態をチェックし、不自然な引き出しや残高の減少がないかを確認します。
親との話し合いと承諾の得方

金銭管理に関する話題は、親にとって「信頼されていない」「自由を奪われる」と感じさせてしまうリスクがあります。私も最初は、お金の管理だけでなく様々なことで「なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないの」、「あんたには任せられない」と母から反発されました。
そこで意識したのは、「監視ではなく見守り」という言葉を使うこと、そして「困ったときにすぐに助けられるようにしたい」と目的を明確に伝える、「常に通帳の記録をつけて今の残高確認ができる」と母が自分でもすぐに確認ができる状況を整えることでした。買い物に行けば、その時に何を買ったのか、いくら使ったのかがわかるようにレシートも確認しやすい場所に置きました。
私は親とのコミュニケーションをあまりとっていなかったので、まずは信頼を得ることも重要視しました。親からすれば、年金を好き勝手使ってしまうのではないかと不安になるのは当然だと思います。その不安を感じさせないようにするためにも、お金の出入りをいつでも確認できるようにして、自分のために使ってはいないとわかるように徹底したことで信頼を得ることができました。
ただ、アプリでいつでも残高が確認できるから、残高を知りたいときは言ってと伝えても意味がりませんでした。私の父と母はスマホを使うことに慣れていないため、スマホでの情報は基本的に信用しません。あくまでも残高確認で信用しているのは通帳のみです。そのため、お金を引き出したときには必ず通帳書き込みをして、通帳をいつでも確認できる場所に置きました。
重要なのは、「親の自立・自由を奪わない」ことです。いつでも確認できる状況にすることで反発を防ぐことができました。私がすることは、あくまで“補助”であることを伝え、すべてを奪うのではなく「必要な範囲で助ける」という姿勢を崩さないようにしました。この姿勢を徹底したことで、自分で管理するよりも楽だという意識が働いたのか、私がお金を管理することに母も父も何も意識しないようになりました。
セキュリティやリスクの対策

父や母には、銀行アプリは不要なものかもしれませんが、お金を管理する私にとっては欠かせない存在です。そんな銀行アプリを使う上で、セキュリティの確保は絶対条件です。特に高齢者のスマホにインストールするケースでは、フィッシング詐欺やなりすまし電話などの被害に遭いやすいため、親のスマホにインストールする場合には、以下の点に注意を払っています。
- アプリの公式性を確認:必ず公式サイトからダウンロードし、不審なアプリは入れない。
- パスワード管理:親がパスワードを忘れやすいので、記録しておくが、紙で残さずデジタルで安全に保管。
- 二段階認証の導入:SMS認証やワンタイムパスワードなど、追加の認証機能は必ずオンにする。
- スマホのロック設定:万が一スマホを紛失しても情報が漏れないよう、画面ロックやアプリロックを設定。
また、親が操作ミスをしてしまう可能性もあるため、一定額以上の送金や引き出しには通知が届く設定にしたり、利用額の上限を設定したりしています。こうすることで、問題があればすぐに気づくことができますし、利用額の制限によってトラブルを未然に防ぐことにもつながるでしょう。
管理を始めて感じたこと

銀行アプリでの金銭管理を始めたころは、「これってやりすぎなのでは?」と感じることもありましたが、今では心から「やって良かった」と思っています。
母自身もお金の管理を一人でするのは不安だったようで、以前よりも穏やかにお金の話ができるようになりました。支出の傾向も見えるので、必要以上の現金を持ち歩かないようにするなど、生活全体の安全にもつながっています。
なにより、介護において「お金の見える化」は大きな安心につながります。認知症が進行しても、過去の履歴を元にした判断ができ、金銭トラブルの未然防止にも役立ちます。
高齢の親と一緒に暮らしていく中で、避けて通れない金銭管理。最初の一歩を踏み出すのは勇気がいりますが、銀行アプリの導入は手軽で効果的な方法のひとつです。
「見守り」と「支援」のバランスを保ちつつ、家族としてできることから始めてみてはいかがでしょうか。
コメント